返報性の原理

他人から、施しを受けると何かお返しをしなければならないと思う気持ちは、人に大小の違いはあれども、だれもが持つ心理で、これを「返報性の原理」と心理学では呼び、好意も感じると(男女の場合は逆もありうるが)、好きではなかった人に対して好印象も感じ始める。これを「好意の返報性」と呼ぶこともある。

この「返報性の原理」は教育の中でも適用されると大いに感じている。

学生生活の中でふりかえって、尊敬した先生や好意をもった先生を思い出してみよう。

一から十まで厳しいばかりの先生には、なかなかそのような感情を持つこともないが、それ以上に思い出そうとしても忘れてしまっている先生の殆どは、自分に対して、何のストロークもしないばかりか、(実際はそうではなかったかもしれないが)自分に対して厳しさも含めた施しの無かった人ではないだろうか。

何度か小欄でも触れたことだが、目の前の受講生に対して、何とかしてあげたい気持ちさえあれば、たとえ、オプションレッスンでも、指導した後に、「今日のレッスンのまとめ」の補足であったり、「復習のための練習問題」であったり、用意したくなるのは普通ではないだろうか?

その時間を持つことは、報酬に関わりないから「損」だと感じるだろうか?

今日のレッスンで指導してほしい内容を事前に調べ、そのためのプリントを用意してあげること、それに、受講生が「返報性の原理」が働くとすれば、やり甲斐はないだろうか?

勉強が好きでなかった生徒が、チューターの少しした施しがきっかけで、変化が始まる喜びは何にも代えがたい。

もちろん、見返りを期待しても裏切られることも多いのは事実だが、まずは、その受講生を好きになってあげよう。

私がかつて、教壇に立っていた時、「どうしても勉強する目的がわからない」と真剣に尋ねる子どもに、「そうだね、色々な理屈を話されても、ピンと来ないんだね。じゃあ、今度のテストのために、先生が、あなたのためだけの時間をとって、あなたのためだけのプリントを用意してくるので、先生のために勉強してみよう」と話したことがある。

へ理屈だったかもしれないが、その生徒は、真剣に勉強してくれ、92点というハイスコアをとってくれたことがある。忘れられないことの一つだ。

その後、その生徒は同じ質問をしなくなった。

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